下町すみだ      築70年の牧師館暮らし。犬と庭と日々の糧。              
by Annes_Tea
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宮 葉子 yoko miya
文筆家+牧師の奥さん

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犬を見送る♯1 ボーダーコリーのメルが死んだ日
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6月25日12時45分、メルが死んだ。
病名がわかってから2週間弱、
闘病というにはあまりに短い時間だった。

1歳半で処分寸前のところを引き取り、
11年間を牧師館でともに暮らした。
私専用の裏口の土間がメルの居場所だった。
築70年は経とうとする古家だから、
壁のしっくいはところどころ剥げ落ち、
お世辞にもすてきだとは言えない場所なのだが、
犬というものは文句ひとつ言わない。
置きっ放しのガーデニングブーツをかじるでもなく、
ふだんは夫がこしらえたパイン材のすのこの上で、
おまんじゅうのごとくまんまるになって満足していた。
いつでもどんなときでも、
「おやつ」と「おさんぽ」のふた言を心待ちにして、
私たちふたりといっしょにいる時間を、
おやつ以上に愛している犬だった。

メルの犬人生は、12歳と半年だった。
ボーダーコリーの寿命は、
13歳から16歳くらいが平均だと聞いていたから、
納得のいく年数だったのがせめてもの慰めだ。
そうはいっても、
あまりにも急なことだったので、
病名を聞いてからは、悲しくて悲しくてしかたなかった。

最後、大きく2回、息を吸おうとしてかなわず、
ブルーアイ側の目だけを見開いて息を引き取った。
「ぼくの好きな方の目を見せてくれているのかな」と夫が言った。
顔をそっと上げてみると、ブラウンアイの方は眠ったように閉じていた。
完全に寝たきりになったのは死の前日だけで、
その前の日まではおやつも食べた。
しかも、1週間分のおやつを1日で食べるような勢いで。
「好きなものを好きなだけ食べさせてあげて、
思うぞんぶんかわいがってあげてください」
と獣医に言われていたので、
ふだんはおやつの量に厳格な私も、
甘々、めろめろな人格に変貌して、
2週間、メルの気がすむまでおやつをあげた。

メルが息を引き取ったとわかった瞬間、
夫と私は何度もメルを呼んだ。
メル、メル、戻ってきて。
ああ、もうだめだ。
そう悟ったときに出てきたことばは、
「ありがとう」、ただこればかりだった。
メル、ありがとう。
うちに来てくれてありがとう。
犬が与えてくれた豊かな時間が、
かたまりのように一気に私の心に流れてきて、
ありがとうということば以外、何も浮かばなかった。

メルの病名がわかったとき、
最初にメルの顔を見たときも同じような気持ちになった。
何を考えるでもなく、「ありがとう」ということばが出てきた。
不思議なくらい、何度でも、何度でも、
自分の口が言っているのだ。

そして、私は泣いた。
メルが死んで、私は「びょおびょお」泣いた。
どういうわけか「びょおびょお」という擬声語が、
遠い記憶の中から立ち上がって、私の頭に浮かんだのだ。
江國香織の『デューク』という作品にある表現で、
愛犬を亡くした21歳の主人公が、
幼い子どものように「びょおびょお」泣く。
これを読んだのはものすごく昔のことだから、
いったいどんな回路でつながったのか本人にもさっぱりなのだが、
電車の中で泣いている主人公のことまで思い出していた。
読んだ当時の私は、結婚もしていなかったし、
まして犬とは挨拶すらしたことがなかった。
犬という存在は、例えばグリーランドという土地と同じくらい、
遠くて未知で知らない相手だった。

メルはまず助からない。
こう知ってから、私はありのまま悲しもう、
泣きたければ泣こう、と決めていた。
気持ちを抑え込んだり、我慢するのはやめよう。
ほとんど決意に近い気持ちだった。
悲しいときにじゅうぶん悲しめば、
心は健全に回復するのだから。

夫はびょおびょおとは泣かなかった。
男の人は、ちょっと違うのかもしれない。
ちょっと違うけれど、私が初めて見る泣き方ではあった。
このうえなく優しさにあふれた涙で、
そんな夫の姿を見せてくれたメルに、
やっぱりありがとうと言いたくなった。

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メルの好きな場所は、夫の足の上。
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死の3日前。私にやたらとくっつきたがりました。
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よく笑う犬でした。人間もメルも大好きだった軽井沢で。

こころに届くことばたち。好評発売中のエッセイです。



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by Annes_Tea | 2015-07-01 17:31 | ボーダーコリーのメル
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