下町すみだ      築70年の牧師館暮らし。犬と庭と日々の糧。              
by Annes_Tea
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宮 葉子 yoko miya
文筆家+牧師の奥さん

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犬を見送る♯4 ペットロスにならないために必要なグリーフ・ワーク

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夫とメルの姿を撮ることは、
11年間のライフワークでした。
さて、次はどうしましょう。


今年はすっかりさぼっていたブログだが、
こうして一気にメルとの別れを書いているのも、
一種のグリーフ・ワークだと思っている。

グリーフ・ワークとは、
喪失を経験した人が、
悲しみなどの感情を表に出していくなかで、
その痛みがいやされていくプロセスを言う。

話すことは、離すこと。
いえ、悲しみと離れるのではなく、悲しみを健全に放つこと。
そうしてやがて、悲しみは手放されていく。
私にとって書くことには、話すこと以上の力がある。

「悲しみや寂しさは消えなくとも、それにまさる慰めがある」
と教えてくれたのは、
2年前に犬を亡くした知り合いだ。
もしもこれが12歳の人間を失ったのであれば、
打ちのめされて簡単には立ち上がれないと思うが、
相手は犬。そこのところは、混ぜこぜにしてはいない。

けれども、悲しみの感受性はひとりひとりまったく違う。
たとえ犬であろうとも、
失ったものの大きさにたじろいでしまう場合だってある。
前述の犬を亡くした方のお連れ合いから、
一時期、まさかのペットロスになったとうかがった。
毎日毎日、ひたすら草むしりをしてたような状態だったという。

グリーフ・ワークについては特別に関心がある。
教会の大切な働きのひとつでもあるので、
これまでも機会を見つけては学んできた。
死生学で著名なイエズス会司祭のアルフォンス・デーケン先生や、
2年ほど前に亡くなられた精神科医の平山正実先生の講義からは、
とくにたくさんの示唆をいただいた。

じつは、この4月から思うところがあり、
再びキリスト教カウンセリングを学んでいる。
最低でも2年間は通うことになるため、
かなり悩んだ末に、決断した。
人が難しくなっている。日々、痛感する現場にいる中で、
もう一度、心について、支援について、
体系的に学ぶようにと押し出されたかっこうとなった。

メルの病気がわかったころ、
ちょうどグリーフ・ワークについて学んだところだった。
悲嘆するのは人間として自然のことだ。
そのプロセスで「怒り」の表出がいちばん重要だとも言われている。
例えば、なぜ死んだのかという問い。

メルについては、
あまりにも死までが短期間であることには驚いたが、
なぜ、どうして、という問いはまったく浮かんでこなかった。
むしろ、メルが次に進んでいいよ、
とサインを出してくれた気がしていた。
じつは昨年後半ごろから、ひとつのひっかかりがあった。
これから新しくやっていこうと考えているいくつかのことに、
老犬となっていくメル、
しかも、ちょっと難しい気質のメルは、
果たして変化に適応できるだろうか。
新しいことにとりかかる時期や方法を祈っていたのだ。

メルが重い病気だと知ってからしばらくして、
ああ、人生のひとつのシーズンが締めくくられるのだ、
と妙に納得したところがあった。
そうして、今、メルの死を消化していくグリーフ・ワークは、
「進め」に行く前の準備期間だと受け取っている。
いいんだね、進んでいくよ。
神さまから与えられた思いをよく確かめて、
一歩一歩進んでいくからね。
ときどき心の中で、メルにこう話しかける。

前回のブログにも書いたことだが、
メルの病気を通して、
たくさんの方々から、
思いやりと慈しみを注いでいただき、
感激することの多い日々だった。
あるいは、夫の優しさを、新鮮な思いで見直すことも多かった。

人の心の難しさを学び直している中で、
ときどき人って(もちろん自分も含め )メンドウだ、
と叫びたくなるようなときもある。
でも、やっぱり人って、すごいな、
カミノカタチに創られたことだけのことはあるんだ、と思う。

犬を知っている人、
犬を愛している人、
たくさんの人たちがことばや品物や祈りで、
私たちに思いを届けてくださった。
どちらかというと励まされるよりも、
ふだんは励ます役割を担っているので、
これらはとても貴重な体験だった。

何時間もかけてメルに会いに来てくれた大学生。

あるいは、祈りの友。
体調が悪いにも関わらず、
メルが危ないと知るや、
隅田川の向こうから自転車を飛ばして応援グッズを山ほど持ってきてくれた。
脱水症状改善の特別な水や、
食欲のない時の必殺おやつだとか。
彼女は、メルの死の前日にも、
マリー・ビスケットを持ってきてくれた。
彼女の経験によると、
どんな犬でもマリー・ビスケットは喜んで食べるらしい。
メルには人間の食べ物をあげたことはなかったのだが、
喜ぶならばと差し出してみると、
かりかりと小気味良い音を立てて食べきった。
犬人生最初で最後のマリー・ビスケットだった。

立ち話でメルの死を知って、
一緒に涙ぐんでくれたおばあさん。
この方とは、メルの散歩の際、
挨拶だけの仲だったのだが、
私たちを励まそうとして、
たくさんたくさんご自分の話をしてくださった。

近所のボーダー・コリーもそうだ。
いつも素通りするボーダーさんなのに、
メルが死んだ日やりきれなくて、
道路に面した花壇の整備に精を出していた私の横に来ると、
そのまま静かに座ったのだ。
飼い主さんにメルのことを知らせ、
少し立ち話をしている間も、
私の横を去ろうとはせず、
ふわふわした胸のあたりまで触らせてくれた。

メルがサヨナラしたと知るや、
多くの人たちが花を届けてくださった。
いちばん驚いたのは、
荒川河川敷で犬の散歩で会うだけの方が、
教会まで花かごを持って来てくださったことだった。
犬の散歩で会う人とは、
お互いに犬の名前しか知らない。
私たちは教会暮らしなので、
どこのだれかと知られていることが多いが、
私たちの方では、相手のことをほんど知らないにも関わらず。
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動物病院から届いたのにはびっくりしました。
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バーニーズ・マウンテンドッグの飼い主さんから。
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夫の幼馴染が、朝早く訪ねてくださり、
メルに、と白いバラの包みをそっと。
こういうの、すてきだな、と思いました。
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百合、百合、百合だらけなんです。
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復活と永遠の希望の香り。


今も花はリビングを明るく彩っている。
「まるで花屋さんだね」と夫が言う。
美術教師をしていた夫が、
高校の美術展のために描いたメルの絵を飾り、
いただいた花を周りに配した。
メルの火葬時にいただいたカサブランカは、
一本ずつ花開き、一本ずつ枯れ、
それでも強烈な甘い香りを放っている。

もう何年も会っていないという夫の友人から、
お見舞いとして紅茶が届いた。
マリアージュ・フレールのマルコポーロだ。
メルが死んだ日、
私はいつも以上にていねいに紅茶を入れた。
沸かしたての湯、丸いポットの中で跳ね回る茶葉。
内側の真っ白なボーンチャイナのティーカップに注ぎ、
夫と静かなお茶の時間を持った。
いい香りだね、と夫が言う。
ほんと、いい香り。

これからきっと、マリアージュ・フレールの紅茶を飲む度に、
メルのことを思い出すのだろう。
紅茶とメル。
私の大好きなふたつが、はからずも結びついた瞬間だった。

今もふと、電車に乗ったときに、涙が浮かぶ。
電車の中では、だれもがだれでもない他人となるせいか、
心の深いところから思いが自然とせり上がってくるようなのだ。
改札から人の群れに流されて歩いているときにも、
夜の献立を考えている頭の一方で、
ああ、メルに会いたい、とつぶいやいていたりする。
あるいは、土間に続く扉を開けたときに、
いるはずのメルがいないとわかったときのほうけたような気持ち。

でも、悲しいというよりも、
11年半の日々をいっしょに生ききった楽しさの方が強く、
つい狭くなりやすい私の心が、
優しい力で押し広げられたような解放感がある。

犬はもういいや、とはいっこうに思うことがなく、
犬のいない生活なんて、と思っている自分に驚いている。
いつか、そのうちに。

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これで、メルとの別れの話はおしまいです。
読んでくださったみなさん、ありがとうございます。



こころに届くことばたち。好評発売中のエッセイです。



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by Annes_Tea | 2015-07-05 20:44 | ボーダーコリーのメル
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